― 相談できない立場で、一人で考え続けてきた内省と支え ―
事業承継でストレスを感じている方へ。
家族経営の中で、
「なぜこんなにしんどいのか」と感じることはないでしょうか。
事業承継したのに「後継者として認められていない」と感じることがある
事業承継をすれば、その日から肩書上は後継者になります。
会社を代表する立場になったり、
営業や取引先との交渉を任されたり、
重要な判断をする機会も増えていきます。
しかし、
肩書が変わったからといって、
周囲からの見方まで同じ日に変わるわけではありません。
取引先との関係では、特にそれを感じることがあります。
「この件は先代に確認してもらえますか」
「先代はどう言っているの?」
「一度、親御さんにも聞いておいてください」
自分が担当しているはずなのに、最終的な判断者として扱われていないように感じる。
こちらから提案しても、その場では決まらず、先代の確認を求められる。
そんなことが続けば、
「自分は後継者として認められていないのではないか」
と感じても不思議ではありません。
事業承継では、
会社そのものを引き継ぐことと、
取引先から一人の経営者として信用されることは、
必ずしも同時には進まないのだと思います。
この記事では、
「後継者として認められない」
「二代目だから信用されない」と感じる理由と、
事業承継後の取引先との関係をどう捉えればよいのかについて、
私自身の経験を振り返りながら考えてみます。
会社を引き継ぐことと「信用を引き継ぐこと」は同じではない
先に結論を書くと、私は、
事業承継によって会社は引き継げても、
先代が築いた個人としての信用まで、そのまま引き継げるわけではない
と考えています。
これは、後継者の能力が足りないという意味ではありません。
先代と取引先との間には、長い時間があります。
何度も商談をした。
難しい案件を一緒に乗り越えた。
トラブルにも対応した。
約束を守ってきた。
そうした小さな経験が何年、何十年と積み重なって、
「この人なら大丈夫」
という信用になっています。
一方、後継者は会社に長く在籍していたとしても、
取引先との関係ではまだ十分な時間を共有していない場合があります。
ならば、信用に差があるのはある意味では自然です。
ところが後継者側からすると、
「会社を任されているのに信用されない」
と感じてしまう。
ここに、事業承継後の取引先に対する不安や、
二代目経営者特有のプレッシャーが生まれるのだと思います。
なぜ事業承継後も取引先は先代を頼るのか
取引先の立場から考えてみると、理由は意外と単純かもしれません。
「今までその人と取引してきたから」
です。
長年の取引では、相手の判断基準まで何となく分かるようになります。
「ここまでは大丈夫」
「これは確認が必要」
「この人ならこう判断するだろう」
そうした暗黙の了解が積み重なっています。
ところが事業承継によって担当する人や経営者が変わると、
取引先側にも分からないことが増えます。
どこまで任せていいのか。
何を大切にする人なのか。
以前と同じ条件で取引できるのか。
会社の方針は変わるのか。
つまり、不安を感じているのは後継者だけではなく、
取引先側も同じなのかもしれません。
そう考えると、
「先代に確認してください」
という言葉も、
「あなたを信用していません」
という意味ではなく、
「まだあなたの判断基準が分からない」
という意味の場合もあるでしょう。
ここを区別することは、かなり大切だと思います。
「信用されていない」と「まだ知られていない」は違う
事業承継の中で、私が切り分けて考えたいと思うようになったことがあります。
それが、
「信用されていない」のか、
それとも「まだ知られていない」のか
という違いです。
この二つは似ていますが、意味は大きく異なります。
信用されていないのであれば、過去の対応や判断に何らかの問題があった可能性があります。
それなら改善すべき点を考える必要があります。
しかし、単に後継者として接する期間が短く、
判断基準や仕事の進め方を知られていないだけなら、
必要なのは自己否定ではなく時間です。
それにもかかわらず、
「信用されていない」
「認めてもらえない」
「自分には経営者としての能力がない」
と一気に結論づけてしまうと、必要以上に自分を追い込むことになります。
事実と、自分の受け取り方。
ここを一度切り分ける。
これは取引先との関係だけでなく、
私自身が事業承継のストレスと向き合う中で大切にしてきた考え方でもあります。
例えば、
先方が相談している相手は私なのですが、
結局は先代の時に決めた基準を再検討された時に自分の能力の低さを感じ、
「自分は何のためにこの場にいるのか」と悲しくもなりましたが、
先方からすれば、
当時私の何を判断基準としたらよいのかが分からなかったのではと今では思います。
二代目が信用されないと感じるほど、無理をして認められようとする
後継者として認められていないと感じると、
「早く結果を出さなければ」
という気持ちが強くなることがあります。
そして、ここから別の問題が始まります。
無理な依頼でも引き受ける。
値段について強く言えない。
納期について無理をする。
必要以上に相手へ合わせる。
何か頼まれると断れない。
もちろん、取引先との関係を築くために努力することは大切です。
しかし、
「信用を積むための努力」
と
「認めてもらうための無理」
は違うのではないでしょうか。
無理を重ねて信用を得ようとすると、
その条件が次の取引でも当たり前になります。
そうすると、
「断ったら信用を失う」
という不安がさらに強くなる。
結果として、
取引先との関係を守るために自分の判断を曲げ続けることにもなりかねません。
後継者として認めてもらうことと、何でも受け入れることは別です。
ここも切り分けて考える必要があります。
取引先からの信用は「大きな成果」だけで作られるものではない
「早く認めてもらいたい」
と思うと、大きな成果を出そうとしてしまいます。
大型案件を取る。
売上を伸ばす。
新商品を成功させる。
もちろん、それも一つの信用になるでしょう。
しかし、長い取引関係を考えると、信用はもっと地味なところにもあると思います。
連絡すると言った日に連絡する。
できないことは、できないと説明する。
分からないことを曖昧にしない。
トラブルが起きた時に逃げない。
約束したことを守る。
相手が困っている時には、一緒に方法を考える。
どれも派手ではありません。
しかし、
「この人に話せばきちんと対応してくれる」
という感覚は、こうした小さな経験から生まれていくのではないでしょうか。
事業承継後の後継者に必要なのは、
先代の何十年分もの信用に短期間で追いつくことではなく、
自分との取引経験を一つずつ増やしていくこと
なのだと思います。
私の場合、上記のように向き合うことを努めた結果、
「息子さん」ではなく名前で呼んでもらう様になったこと、
新たな製品素材を探してほしいと依頼されたこと、
そして、製品展開に当たり私の意見を求められたこと、
これらのことが一個ずつ積み重なり、お客様との関係性を作っていった感覚があります。
先代の信用を否定する必要も、超える必要もない
二代目として難しいのは、
先代の存在をどう捉えるかです。
「自分を認めてもらうには先代を超えなければ」
と思ってしまうことがあります。
しかし、これは少し違うのではないかと思います。
先代が取引先から信用されているのであれば、
それは会社にとって大切な財産です。
否定する必要はありません。
同時に、
先代と同じ人間になる必要もありません。
先代には先代の強みがある。
自分には自分の強みがある。
営業方法も違う。
判断方法も違う。
得意な商品も違うかもしれません。
事業承継とは、
先代のコピーを作ることではなく、
受け継いだ信用の上に、
自分自身の信用を少しずつ重ねていくこと
なのではないでしょうか。
「後継者として認められる」をゴールにし過ぎない
ここで、もう一つ考えたいことがあります。
そもそも、
「認められた状態」とは何でしょうか。
すべての取引先から評価されることなのか。
先代と同じ扱いを受けることなのか。
自分の判断に誰も異論を言わなくなることなのか。
考えてみると、かなり曖昧です。
この曖昧な目標を追い続けると、
どれだけ頑張っても
「まだ足りない」
という状態になりかねません。
だから私は、
相手から認められたかどうかより、
「自分がどういう仕事をしたいのか」
を考える方が大切なのではないかと思います。
誠実に対応する。
必要な提案をする。
できないことは説明する。
約束を守る。
問題が起きたら一緒に考える。
自分が大切にしたい仕事の姿勢を積み重ねる。
その結果として信用がついてくる。
この順番の方が、自分自身も崩れにくいように感じます。
取引先の評価を気にしすぎると判断が鈍ることもある
事業承継でストレスが強くなっていた時期を振り返ると、
「どう思われるか」
を考えすぎること自体が、
判断の負担になっていたように感じます。
この提案をしたら嫌われないか。
値上げしたら取引を切られないか。
断ったら「二代目になって変わった」と言われないか。
相手の評価を予測し続ける。
すると本来考えるべき、
「会社として何が適切なのか」
より、
「どうすれば悪く思われないか」
が判断基準になってしまうことがあります。
もちろん取引先の立場を考えることは必要です。
しかし、
配慮と迎合は同じではありません。
相手の事情を理解しながら、自分の会社として必要な判断をする。
そのバランスを取ることも、
後継者として少しずつ身につけていくものなのだと思います。
事業承継で取引先への不安が強くなったら「何が怖いのか」を分ける
「取引先に認められていない」
という不安が大きくなった時は、
私は一つの塊として考えない方がよいと思っています。
例えば、
取引を失うことが怖いのか
先代と比較されることが嫌なのか
自分の判断に自信がないのか
相手から嫌われることが怖いのか
売上が減ることが不安なのか
親からどう評価されるかが気になるのか
似ているようで、全部違います。
原因が違えば、対処も違います。
売上への不安なら数字を確認する。
取引条件の問題なら交渉する
自分の判断への不安なら情報を集める。
先代との比較が苦しいなら、「比較」と「自分の価値」を切り分ける。
つまり、
「認められない」という感情の中身を分解する。
これは私自身が事業承継のストレスと向き合う中で、
大切にしてきた考え方です。
私はは、
取引先からどう評価されるか、
上手く立ち回ること、
そればかり気になっていました。
しかし、ある時から
「まず自分にできる業務をきちんとしよう」
「自分には何ができるだろうか?」
を主軸に考えるようになりました。
その結果、
仕事において自分と向き合えるようになり、
切り分けが徐々にできる様になりました。
それでも認めてもらえない取引先はある
ここは、少し冷静に考えておきたいところです。
誠実に対応していれば、
すべての取引先から必ず認めてもらえる。
私は、そこまでは言えないと思います。
相性もあります。
考え方の違いもあります。
先代との関係が強すぎる場合もあります。
そして、取引条件そのものが現在の会社に合わなくなっていることもあります。
だから、
「認めてもらえない=自分の努力不足」
と決めつける必要もありません。
改善すべきところは改善する。
相手の意見も聞く。
その上で、
それでも合わない関係まで無理に維持するべきなのかは、別の経営判断です。
これは冷たく関係を切るという意味ではありません。
「信用されるために自分を削り続けること」と、
「取引関係を大切にすること」は違う。
この線引きを持つことも、後継者として会社を守るためには必要なのだと思います。
後継者としての信用は、承継した日に完成するものではない
事業承継後、
「取引先に後継者として認めてもらえない」
「二代目だから信用されない」
と感じることがあるかもしれません。
しかし、
会社を引き継ぐことと、
個人としての信用を引き継ぐことは同じではありません。
先代が何十年もかけて築いた信用には、
それだけの時間と経験があります。
後継者が、
その年月まで一日で引き継げないのは当然です。
だから、
「まだ信用されていない」と「まだ自分を知られていない」を混同しない。
そして、
認めてもらうために無理を重ねるのではなく、
約束を守る。
誠実に対応する。
必要な提案をする。
できないことは説明する。
困った時には一緒に考える。
そうした小さな仕事を積み重ねていく。
その結果として、
「先代の後継者」
だった自分が、
少しずつ
「この人に相談しよう」
と思ってもらえる存在になっていくのではないでしょうか。
私自身、事業承継の中で感じてきたストレスを振り返ると、
苦しかったのは「信用されていない」という事実だけではなく、
「早く認められなければならない」と自分自身を急かしていたこと
にも原因があったように思います。
事業承継は、一日で終わる出来事ではありません。
信用も同じです。
焦って先代になろうとするのではなく、
自分自身の仕事を一つずつ積み重ねていく。
それもまた、事業承継なのだと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
事業承継のストレスは、
能力や性格の問題ではなく、
構造によって生まれるものです。
もし今しんどさを感じているのであれば、
それはあなたの問題ではなく、
環境によるものかもしれません。
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