取引先から会社の将来を不安視されたとき、後継者として感じたこと

― 相談できない立場で、一人で考え続けてきた内省と支え ―

事業承継でストレスを感じている方へ。

家族経営の中で、
「なぜこんなにしんどいのか」と感じることはないでしょうか。

事業承継をしていると、取引先から会社の将来について聞かれることがあります。
「これから会社はどうしていくの?」
「今後も今まで通り取引できる?」
「この先、大丈夫なの?」

何気ない質問なのかもしれません。
取引先からすれば、
今後も安心して取引を続けられる会社なのかを確認しているだけ、
という場合もあるでしょう。

けれど、後継者の立場にいると、
その言葉を必要以上に重く受け止めてしまうことがあります。

「自分が後継者だから不安に思われているのではないか」
「自分はまだ信用されていないのではないか」
「先代のときには、こんなことを聞かれなかったのではないか」
取引先が「会社の将来」について話しているはずなのに、
いつの間にか「自分自身への評価」のように感じてしまう。
今回は、そんな事業承継における取引先の不安と、
後継者が感じるストレスについて、自分なりに考えてみます。

取引先の不安と、後継者としての自己評価は分けて考えた方がいい

先に結論を書くと、取引先から会社の将来を不安視されたとき、
「取引先が会社について感じている不安」
「後継者としての自分の評価」は、一度切り分けた方がいい
と私は考えています。

もちろん、後継者に対する信用がまったく関係していないとは言い切れません。
事業承継によって経営者が変われば、取引先が、
「これまでと同じように付き合えるのだろうか」
「会社の方針は変わるのだろうか」
と考えるのは不自然なことではありません。

ただ、それをすべて、
「自分が信用されていないからだ」
と受け取ってしまうと、必要以上に自分を追い込むことになります。

会社の将来性、経営環境、取引継続への不安と、後継者個人への評価。
この二つは重なる部分があっても、同じものではない。

この切り分けができるだけでも、
取引先の言葉を受け止めるときの重さは少し変わるように思います。

事業承継では「会社の将来」と「後継者」が重ねて見られやすい

事業承継前であれば、会社の将来について聞かれても、
「会社についての質問」
として受け止められたかもしれません。

ところが後継者になると事情が変わります。
会社の将来を担う人間が、自分になるからです。

「これから会社はどうするの?」
という質問が、
「あなたはこの会社をどうするの?」
に聞こえる。

「今後も大丈夫?」
という言葉が、
「あなたに任せて大丈夫?」
に聞こえてしまう。

実際に相手がそこまで考えているかどうかは分かりません。
それでも後継者の側では、
会社への評価と自分への評価が非常に近い位置に置かれやすい。

特に先代から長く続いてきた会社であれば、
「自分の代で会社を悪くしてはいけない」
という意識もあります。

だからこそ、取引先から将来を心配されると、
その言葉以上の意味を自分の中で作ってしまうことがあります。

応援だったかもしれない言葉は、承継へのプレッシャーと感じたり、
”単なる確認”を”自分への不信”と捉えたり、
私にはそういった取引先の所作に過敏になっていた時期があり、
しかしそれも会社のことを考えるが故に、
致し方なかったのではと今では自身で考えています。

取引先が不安になること自体は、不自然ではない

一方で、取引先の立場からも考えてみる必要があります。
取引とは、相手の会社が存在し続けることを前提に成り立っています。

仕入先であれば、
「今後も商品を供給してもらえるのか」
販売先であれば、
「今までと同じ条件で取引できるのか」
長い付き合いであれば、
「担当者や方針が変わってしまわないか」
と考えるでしょう。

特に事業承継では、
これまで会社の中心だった先代から後継者へ経営が移っていきます。
取引先から見れば、これは一つの変化です。
変化があれば、確認したくなる。
これは「後継者を信用していない」こととは必ずしも同じではありません。
むしろ取引を続けたいからこそ、
「これからどうなるのか」
を確認している場合もあるでしょう。

そう考えると、
「将来を心配された=自分が否定された」
と直結させなくてもよくなります。

後継者の信用は、事業承継した瞬間に完成するものではない

事業承継において、後継者としての信用をどう作るか。
これは簡単な問題ではありません。
先代と取引先との間には、長年の積み重ねがあります。

納期を守った。
トラブルに対応した。
相談に乗った。
難しい仕事を一緒に乗り越えた。
何年、何十年という取引の中で、そうした経験が積み上がっています。

一方、後継者にはその蓄積がまだありません。

それなのに、
「事業を継いだのだから、先代と同じだけ信用されなければいけない」
と考えると、かなり苦しくなります。

役職や株式、仕事は引き継げても、
人と人との信用まで一日で引き継げるわけではない。
ここは時間がかかって当然なのだと思います。

だから取引先から会社の将来を尋ねられたときも、
「まだ信用されていない」
ではなく、
「これから自分との取引を通じて信用を積み上げていく途中なのだ」
と考える余地があります。

二代目経営者のストレスは「答えを持っていなければならない」と感じることにもある

もう一つ、後継者になって感じやすい重さがあります。
それは、
「経営者なのだから、会社の将来について明確な答えを持っていなければならない」
という感覚です。

「これから会社をどうするの?」
と聞かれたとき、
立派な経営ビジョンを話さなければいけない。
数年後の会社像を説明できなければいけない。
迷っている姿を見せてはいけない。
そんなふうに考えてしまう。

しかし現実の経営では、未来のすべてが決まっているわけではありません。

市場も変わる。
取引先も変わる。
仕入価格も変わる。
自社の状況も変わります。

むしろ経営者であればあるほど、分からないことを抱えながら判断し続ける場面があります。

「まだ分からないことがある」
ことと、
「何も考えていない」
ことは違います。

後継者として必要なのは、未来を完璧に言い当てることではなく、
現時点で何を考え、何を大切にして経営しているのかを自分の言葉で伝えること
なのではないでしょうか。

私自身にも、「自分のビジョンを説明できないこと」に負い目を感じていた時期がありました。
明確に答えられなければ、この先相手にされないのではと思って、
当時身構えていたのを覚えています。

不安を打ち消すために、大きなことを言う必要もない

取引先に不安を持たれたと感じると、
「会社は大丈夫です」
「これからもっと成長します」
「問題ありません」
と、強く言いたくなることもあります。

しかし、不安を消そうとして必要以上に大きなことを約束すると、
今度はその言葉が自分自身へのプレッシャーになります。

それよりも、
「今後もこの事業は続けていくつもりです」
「この部分については今後も責任を持って対応します」
「まだ検討中ですが、こういう方向を考えています」
など、現在伝えられる範囲を誠実に話す方が現実的だと思います。

信用は、立派な言葉だけで作られるものではありません。

言ったことを守る。
できないことはできないと伝える。
分からないことは確認して返事をする。
問題が起きたら対応する。
そうした日常の小さな行動もまた、
後継者としての信用を作っていく材料になるはずです。

「会社を守れるか」と「自分に価値があるか」を混ぜない

取引先から会社の将来を心配されたときに、
私が特に気をつけたいと思うのがここです。

経営上の問題と、自分自身の価値を混ぜないこと。
売上が下がった。
取引先が減った。
先行きが不透明になった。
取引先から心配された。

こうした出来事があると、
「自分の経営能力が低いからだ」
「先代だったらこうならなかった」
「自分は後継者として失格なのではないか」
と考えてしまうことがあります。

しかし会社には、自分一人ではコントロールできない要因がたくさんあります。
だからこそ、
「会社に問題がある」ことと
「自分という人間に問題がある」ことを同じにしない。
以前からこのブログで書いてきた「切り分ける」という考え方は、
こうした場面でも役に立つように感じています。

売上や取引先の反応を、自分自身の評価と結びつけていた時期がありました。
「会社を守れなければ、自分が否定されたのと同じだ」とどこかで考えていたのです。
しかし後になって、経営上の結果と自分自身への評価は分けて考えた方が判断しやすいと感じるようになりました。

取引先の不安は「何を心配されているか」を知る材料にもなる

もう一歩違う見方をすると、
取引先から不安を示されたこと自体を、
すべて悪い出来事として扱う必要もないのかもしれません。

「今後も商品は供給されるのか」
「誰に相談すればいいのか」
「今までと同じ仕事を頼めるのか」
「会社としてどこへ向かうのか」
相手の言葉をよく見ると、取引先が何を失うことを心配しているのかが見えてくることがあります。

それが分かれば、こちらが伝えるべきことも変わります。

供給継続を心配しているなら、供給について説明する。
担当変更が不安なら、窓口を明確にする。
先代がいなくなることへの不安なら、自分がどう引き継いでいるのかを伝える。

つまり、
「信用されていない」
という大きな一言にまとめず、
「相手は具体的に何を不安に思っているのだろう」
まで分解する。

これは取引先との関係だけでなく、
自分自身のストレスを必要以上に大きくしないためにも大切な視点だと思います。

事業承継とは、取引先から改めて信用を積み上げる時間でもある

先代が長い時間をかけて築いてきた信用を目の前にすると、
二代目はどうしても比較してしまいます。

先代なら、こんな質問はされなかったのではないか。
先代なら、もっと信用されていたのではないか。
自分はまだ足りないのではないか。

けれど、比較する時間軸がそもそも違います。

先代には長年の積み重ねがある。
後継者には、これから積み重ねていく時間がある。

取引先から会社の将来を不安視されたことを、
「信用されていない証拠」
だけにしてしまう必要はありません。

それはもしかすると、
「これからどういう会社になるのか、あなたから聞きたい」
という問いでもあります。

すぐに完璧な答えを出せなくてもいい。
自分が考えていることを伝える。
約束したことを守る。
できることを一つずつ積み重ねる。

その繰り返しの中で、取引先との関係も、
「先代の会社との付き合い」
から、
「自分との付き合い」
へ少しずつ変わっていくのだと思います。

取引先からの不安を、自分への否定にしない

事業承継の途中で、取引先から会社の将来を不安視される。
後継者にとって、それは決して軽い言葉ではありません。

会社の将来を問われているだけなのに、
「自分は信用されていない」
「後継者として認められていない」
「先代より劣っている」
と、自分自身への評価に変換してしまうことがあります。

しかし、
取引先の不安と、自分自身の価値は別のものです。

さらに、
会社への不安と、後継者への不信も必ずしも同じではありません。

相手は何を心配しているのか。
自分にできることは何なのか。
今伝えられることは何なのか。
そこまで一つずつ切り分けていく。

後継者としての信用は、
事業承継した日に完成するものではありません。
先代と同じ信用をすぐに持てなくても、それは不自然なことではない。
取引先とのやり取りを重ねながら、
自分の代の信用を少しずつ積み上げていけばいい。

私自身も、そんな長い時間軸で考えることが、
二代目経営者として感じるストレスを必要以上に大きくしないために
大切なのではないかと思っています。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

事業承継のストレスは、
能力や性格の問題ではなく、
構造によって生まれるものです。

もし今しんどさを感じているのであれば、

それはあなたの問題ではなく、
環境によるものかもしれません。

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