― 相談できない立場で、一人で考え続けてきた内省と支え ―
事業承継でストレスを感じている方へ。
家族経営の中で、
「なぜこんなにしんどいのか」と感じることはないでしょうか。
長く付き合ってきた取引先から、
「今度、担当が変わることになりました」
と言われる。
仕事をしていれば珍しいことではありません。
異動、昇進、退職、組織変更。
担当者変更にはさまざまな理由があります。
それでも、小さな会社で営業や経営に携わっていると、
この「担当者交代」という言葉に思った以上の不安を感じることがあります。
これまでの関係は、新しい担当者にも引き継がれるのだろうか。
今までと同じように注文をもらえるのだろうか。
こちらの事情を理解してもらえるだろうか。
場合によっては、
「担当者が変わったことをきっかけに、取引そのものがなくなってしまうのではないか」
とまで考えてしまう。
取引先との関係を大切にしてきたからこそ、
その関係が途切れる可能性を考えると怖くなる。
今回は、取引先の担当者変更に感じる不安と、営業関係が個人に依存する「属人化」について、
事業承継を経験してきた立場から考えてみます。
怖いのは担当者変更そのものではなく、「関係までリセットされる」と感じること
先に結論を書くと、
取引先の担当者交代が怖く感じられる理由は、
単に人が変わるからではないと思います。
本当に怖いのは、
「これまで積み上げてきた関係まで、一緒になくなってしまうのではないか」
という不安ではないでしょうか。
特に長年の付き合いがある担当者とは、
商品や価格だけでは説明できない関係ができていきます。
こちらの得意分野を知っている。
多少説明を省いても意図を理解してくれる。
困ったときに相談してくれる。
過去の経緯を知っている。
こちらも相手の会社の事情や考え方が分かっている。
こうしたものは、契約書や顧客データだけでは完全には引き継げません。
だから担当者変更が起きると、
「今まで積み上げてきたものがゼロになるのではないか」
と感じてしまう。
しかし、ここで一度考えてみたいのは、
“その取引関係は本当に「会社との関係」だったのか、
それとも「担当者個人との関係」だったのか“
ということです。
取引先の担当者変更で不安になる理由
営業では、「人との関係」が大切だと言われます。
私もこれは間違っていないと思います。
特に中小企業では、担当者同士の信頼関係によって話が早く進んだり、
新しい相談をもらえたりすることがあります。
しかし、その関係が強くなればなるほど、別の問題も生まれます。
それが個人依存です。
たとえば、
「○○さんだから注文してくれている」
「○○さんがこちらを理解してくれているから取引が続いている」
「何かあれば○○さんに相談すればいい」
という状態です。
これは取引が順調な間は、むしろ強みに見えます。
ところが担当者が変わった瞬間、
その強みが、そのまま不安要素に変わります。
新しい担当者は自社を知らない。
これまでの経緯も十分に知らない。
自社の商品に思い入れがあるとも限らない。
競合他社との取引を増やしたいと考えているかもしれない。
そう考え始めると、
「今までの売上は、会社同士の関係ではなく、あの人との関係で成り立っていたのではないか」
という不安が出てきます。
取引先の担当者変更による不安は、
ある意味では、それまで見えなかった営業の属人化が表面に出てきた瞬間なのかもしれません。
実際私も十数年担当を頂いていた取引先の方が変わる時、
「この人が担当じゃなくなったらどうなってしまうんだろう・・・」
と漠然とした不安感を持った経験があります。
もちろん先方での業務引継ぎは行われるのでしょうが、
それとは別に心情的に色々考えたのを覚えています。
それだけ前任の方には安心感を持っていた証拠だと自身考えます。
担当者交代で「売上まで途切れる」と考えてしまう
経営者にとって、取引先との関係は単なる人間関係ではありません。
そこには売上があります。
だから担当者変更による不安も、
「新しい人と仲良くできるだろうか」
だけでは終わりません。
その先に、
「取引が減るのではないか」
「売上がなくなるのではないか」
という経営上の不安がつながっています。
特に取引先の数が限られていたり、
一社あたりの売上比率が大きかったりすれば、
一人の担当者変更でも重く感じます。
そして不安が強くなるほど、
「新しい担当者に気に入られなければ」
「今まで以上にサービスしなければ」
「多少条件が悪くても断らない方がいいのではないか」
と考え始めることがあります。
ここには注意が必要です。
取引を守りたい気持ちと、必要以上に相手に合わせることは別だからです。
担当者が変わった不安から、
それまでなら受けなかった条件まで受け入れてしまえば、
取引は残っても自社の負担が増えていく可能性があります。
これは「関係を守った」というより、
不安によって判断基準が変わってしまった状態とも考えられます。
二代目経営者だからこそ、担当者変更を重く感じることもある
事業承継の途中にいる二代目経営者の場合、
この問題はさらに複雑になることがあります。
なぜなら、自分自身もまた、
“先代から取引関係を引き継いだ側”
だからです。
先代が作った取引先との関係。
自分が後継者として引き継ぎ、
少しずつ自分自身の関係を作ってきた。
ようやく相手の担当者からも信用してもらえるようになった。
そんなときに担当者が変わる。
すると、
「また最初からなのか」
と感じることがあります。
先代から自分へ。
取引先の旧担当者から新担当者へ。
両側で人が変わることによって、
長年続いてきた会社同士の関係まで不安定になったように感じる。
これは、事業承継の立場だからこそ感じやすいストレスの一つだと思います。
前述の十数年来の担当さんが変更の時は、
後任が就業二年目の方だったのですが、
弊社のこと、自分のことをまた一から説明しなければならないなと、
少々負担気味に感じたものでした。
新しい担当者は「前任者の続き」ではない
担当者変更で私たちが無意識に期待してしまうことがあります。
それは、
“前任者との関係を、新しい担当者にもそのまま引き継いでほしい”
ということです。
しかし、新しい担当者は別の人です。
考え方も違う。
仕事の進め方も違う。
評価基準も違う。
自社の商品に対する見方も違うでしょう。
だから、
「前の担当者は分かってくれたのに」
と比較し続けると、新しい関係を作りにくくなります。
これは二代目が先代と比較される問題と、どこか似ています。
自分が「先代と同じ人」を求められると苦しい。
それなら、自分も新しい担当者に「前任者と同じ人」を求めすぎない方がいい。
前任者との関係を引き継ぐ部分と、新担当者と新しく作る部分を分けて考える。
この視点が必要なのだと思います。
属人化した営業関係を「会社対会社」に戻していく
では、担当者変更のたびに不安にならないためにはどうすればいいのでしょうか。
一つは、取引関係を少しずつ個人対個人から会社対会社へ広げていくことだと思います。
これは人間関係を薄くするという意味ではありません。
担当者との信頼関係は大切にする。
そのうえで、
取引の経緯を記録する。
提案内容を資料として残す。
自社が何を提供できる会社なのか明確にする。
過去にどんな課題を解決してきたのか整理する。
担当者以外の人にも自社を知ってもらう。
こうしたものを積み重ねていく。
そうすると、
「○○さんが知っている会社」
から、
「この会社はこういうことをしてくれる会社」
へ少しずつ変わります。
営業の属人化を完全になくす必要はないと思います。
商売は結局、人と人との間で行われる部分が大きいからです。
ただ、人との関係だけに売上のすべてを預けない。
ここは経営として考えておく価値があります。
担当者変更は、自社の価値を説明し直す機会にもなる
担当者交代というと、どうしても「失う可能性」に目が向きます。
しかし見方を変えると、新しい担当者との関係を作り直す機会でもあります。
前任者とは長年の付き合いがあったため、
「うちは何ができる会社なのか」
を改めて説明することも少なくなっていたかもしれません。
新しい担当者には、それを一から説明する必要があります。
そこで、
自社は何を提供しているのか。
なぜ長く取引が続いてきたのか。
どんなことで役に立てるのか。
今後どんな提案ができるのか。
を改めて整理する。
すると、自分たち自身が取引の価値を再確認する機会にもなります。
さらに、新しい担当者だからこそ、
それまでとは違う相談が出てくる可能性もあります。
担当変更は、必ずしも関係の終了ではありません。
関係の再構築と考える余地があります。
前述の担当者交代時に感じた不安も、
結果私の杞憂で終わりました。
その時に業務すり合わせや確認はあり、
少々の行き違いの様なものはありましたが、
ミスという程のものでもありませんでした。
確かに担当者交代に限らず、不安に思う事には現実的な理由が存在します。
必要なのは”そんな不安とどう付き合うか”を意識することと考えます。
担当者が変わることと、取引が終わることを同じにしない
担当者変更の連絡を受けた瞬間、
「取引がなくなるかもしれない」
と考えてしまうことがあります。
しかし、その時点ではまだ何も決まっていません。
担当者が変わった。
これは事実です。
取引がなくなる。
これはまだ未来の可能性です。
この二つを頭の中で直結させると、
まだ起きていない出来事によって大きなストレスを抱えることになります。
だから私は、
事実と予測を分けること
が大切だと思います。
担当者が変わることは、自分ではコントロールできません。
しかし、
新しい担当者へ挨拶する。
これまでの経緯を説明する。
自社ができることを伝える。
相手が何を求めているか改めて聞く。
これは自分にできます。
「取引がなくなったらどうしよう」
を考え続けるより、
「新しい担当者との関係で、今できることは何か」
へ思考を戻す。
それだけでも、不安に引っ張られたまま判断することは減らせるように思います。
取引先との関係は、人に依存してはいけないのか
ここまで書くと、
「では営業は属人化させない方がいいのか」
という話になりそうですが、私はそこまで単純ではないと思っています。
人間同士の信頼関係は、営業の大きな価値です。
困ったときに思い出してもらえる。
「この人なら相談できる」と思ってもらえる。
これは簡単に仕組みだけで代替できるものではありません。
問題なのは、
人との関係があることではなく、
その人がいなくなった瞬間に取引の理由までなくなってしまうこと
なのだと思います。
人として信頼してもらう。
そのうえで、
会社としても価値を持つ。
商品にも価値がある。
提案にも価値がある。
対応にも価値がある。
複数の理由で取引してもらえる状態を作る。
そうすれば担当者変更が起きても、
「すべてがゼロになる」
という感覚は少しずつ減っていくはずです。
担当者変更の不安は、関係を見直すきっかけにもなる
取引先の担当者交代が怖い。
これは決して不自然な感覚ではないと思います。
長く付き合ってきた担当者であればあるほど、
関係が途切れるのではないか。
注文が減るのではないか。
売上がなくなるのではないか。
と考えてしまうことがあります。
特に二代目経営者の場合、
先代から引き継いだ取引関係を守ろうとしている途中で担当者まで変われば、
なおさら不安を感じるでしょう。
ただ、そこで一度、
「自社と取引先との関係は、何によって成り立っているのだろう」
と考えてみる。
担当者との人間関係なのか。
商品なのか。
価格なのか。
対応力なのか。
提案なのか。
長年積み重ねた会社としての信用なのか。
もし一人の担当者だけに大きく依存していたのであれば、
担当者変更への不安は、営業関係の属人化に気づくサインでもあります。
人との関係を大切にしながら、会社としての関係も作っていく。
そして担当者が変わったときには、
「これまでの関係が終わった」
ではなく、
「新しい関係を作る時期に入った」
と捉えてみる。
もちろん、それで売上への不安が完全になくなるわけではありません。
それでも、
担当者変更という「事実」と、
取引がなくなるかもしれないという「予測」を切り分ける。
“そのうえで、自分にできること”へ戻る。
事業承継や経営の中で生まれるストレスに対して、
私はこうした小さな切り分けを重ねることが、
判断できる状態を保つための一つの下支えになるのではないかと思っています。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
事業承継のストレスは、
能力や性格の問題ではなく、
構造によって生まれるものです。
もし今しんどさを感じているのであれば、
それはあなたの問題ではなく、
環境によるものかもしれません。
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