赤字の仕事でも断れない|長年の取引関係が重荷になるとき

― 相談できない立場で、一人で考え続けてきた内省と支え/家族経営・事業承継のストレスと向き合う記録―

事業承継でストレスを感じている方へ。

家族経営の中で、
「なぜこんなにしんどいのか」と感じることはないでしょうか。

売上は立っている。
注文も継続してもらっている。
長年付き合ってきた大切な取引先でもある。

それなのに、計算してみるとほとんど利益が残らない。
場合によっては、手間や経費まで含めれば赤字になっている。

経営者として考えれば、
「この取引は見直した方がいい」
と分かっている。

それでも、なかなか断れない。

「昔から付き合ってもらっているから」
「先代の頃から続いている仕事だから」
「この仕事だけ断ったら、他の取引までなくなるのではないか」
「困っているのに断るのは申し訳ない」
そんな気持ちが入り込んできます。

特に事業承継で先代から取引先を引き継いだ立場では、
不採算取引をやめることが単なる経営判断ではなく、
先代から受け継いだ関係を自分が壊す判断のように感じられることがあります。

今回は、「赤字だと分かっているのに断れない」という状態について、
長年の取引関係と経営判断をどう切り分ければいいのか、自分なりに考えてみます。

「取引先を大切にすること」と「赤字取引を続けること」は同じではない

先に結論を書くと、
長年の取引先を大切にすることと、不採算の仕事をそのまま続けることは、分けて考えた方がいい
と私は思っています。

取引先への感謝はある。
これまで助けてもらったこともある。
簡単に関係を切りたいわけでもない。

それでも、
「昔からの付き合いだから」
という理由だけで赤字取引を続ければ、
その負担は自社が引き受け続けることになります。

ここで厄介なのは、数字だけの問題ではないことです。

採算だけを見れば答えが出ていても、
「断ったら相手はどう思うだろう」
という感情が入ってくる。
すると、
「赤字だから見直すか」
という経営判断が、
「長年の取引先を裏切るのか」
という人間関係の問題に変わってしまいます。

この二つを混ぜてしまうから、
不採算取引をやめる判断が重くなるのだと思います。

赤字取引を断れないのは、数字が分かっていないからとは限らない

不採算取引を続けていると、
「ちゃんと原価計算していないのでは?」
と思われるかもしれません。

しかし実際には、赤字だと分かっていても断れないことがあります。
仕入価格。
運賃。
加工費。
梱包費。
人が動く時間。
細かな対応。

数字を見れば、以前より利益が薄くなっている。
それでも、
「このくらいなら今回も」
と引き受けてしまう。

一回なら大きな問題ではないかもしれません。
ところが、その「今回だけ」が通常の取引条件になると話が変わります。

毎回少しずつ利益が削られる。
売上はあるので、表面上は仕事をしているように見える。
しかし忙しい割に利益が残らない。

それでも注文が来れば、
「売上を減らしたくない」
という気持ちも働きます。
こうして不採算取引が続いていく。

問題は、数字を知らないことではなく、
数字を知った後に何を判断するかなのだと思います。

私はかつて『長くお付き合いを頂いているから』または『悪く思われたくないから』という理由で、
仕入先からの価格アップの通知があっても値上げ幅満額の転嫁をせず、
その思いだけで自社の利益を削っていたことがあります。
結果その仕事が利幅の少ない商売になってしまいそうだと気づき始めた時には、
経営側としての判断に甘さがあったのだと痛感しました。

長年の取引ほど「断る」が難しくなる

新規の取引で条件が合わなければ、
「申し訳ありませんが、この条件では対応できません」
と言えることでも、10年、20年と続いてきた取引では難しくなることがあります。

そこには数字に表れない履歴があるからです。

過去に助けてもらった。
仕事を紹介してもらった。
売上が苦しい時期にも注文をもらった。
先代と相手の経営者との間に長い付き合いがあった。

こうした歴史を知っているほど、
「採算が合わないからやめます」
だけでは割り切れません。
これは人として自然なことだと思います。

ただし、ここで一つ考えたいことがあります。

“過去への感謝を、未来の赤字で返し続ける必要があるのか。”

感謝することと、不採算条件を無期限で受け入れることは別です。
過去の関係を大切にしながら、
現在の条件について改めて相談することもできます。
むしろ長く取引を続けたいのであれば、
どちらか一方だけが負担を抱え続ける関係より、
双方が継続できる条件へ見直す方が自然なのかもしれません。

事業承継では「先代から引き継いだ取引」という重さが加わる

二代目経営者の場合、さらに難しい問題があります。

自分で始めた取引なら、
「この条件では継続できない」
と比較的判断しやすい。

ところが先代から引き継いだ取引の場合、
「自分に、この取引をやめる権利があるのだろうか」
という感覚が生まれることがあります。

先代が長く続けてきた。
相手にも歴史がある。
自分が後継者になった途端に条件を変える。

そう考えると、
「二代目になったら冷たくなった」
と思われるのではないか。
「先代ならやってくれた」
と言われるのではないか。
そんな不安が出てきます。

すると赤字案件を断ることが、
一つの仕事を断ることではなく、先代の判断を否定すること
のように感じられてしまいます。

しかし、先代がその仕事を引き受けていた当時と、現在の条件が同じとは限りません。

原材料価格も変わる。
物流費も変わる。
取引量も変わる。
会社の経営状況も変わります。

先代の時代には合理的だった条件が、現在も合理的とは限らない。
だからこそ、引き継ぐべきなのは「当時の条件」そのものではなく、
なぜその取引を大切にしていたのかという背景なのだと思います。

「この仕事を断ったら全部なくなる」という不安

不採算取引をやめられない理由には、もう一つあります。

“その仕事だけでなく、取引先そのものを失うのが怖い。”

たとえば一社と複数の取引があった場合、
「この赤字案件だけ断ったら、利益の出ている仕事まで他社へ移されるのではないか」
と考えることがあります。
これは現実にあり得ない話ではありません。

だから単純に、
「赤字なら全部切ればいい」
とは言えません。

重要なのは、ここでも”事実と不安を分けること”です。

この案件単体では赤字なのか。
他の取引を含めると全体では利益が出ているのか。
この仕事が他の案件につながっているのか。
条件変更を申し出た場合、本当に全取引を失う可能性が高いのか。

それとも、
「断ったら嫌われる」
という自分の不安が大きくなっているのか。
同じ赤字案件でも、答えは違います。

実際に『このまま自社利益を削ったのでは赤字になってしまう』といった局面でも、
その他の売りに関してはしっかりと利益を取れていたものが両立していたケースがあります。
だからなのか、利幅が狭くなっていっても値上げのお願いを言い出しにくかったことがあります。

「売上がある」と「会社に利益を残している」は違う

不採算取引で特に判断を鈍らせるのが、売上です。
100万円の仕事を断れば、売上は100万円減ります。

数字だけを見れば怖い。

しかし、その100万円を作るために99万円以上の費用や手間がかかっているのであれば、
会社に残るものはわずかです。

さらに、
その仕事に時間を取られることで、
利益率の高い仕事への営業や提案ができなくなることもあります。

すると赤字案件には、帳簿上の損失だけでなく、
他の仕事へ使えたはずの時間を失うコストまで生まれます。

忙しい。
売上も立っている。
でも利益が残らない。
この状態では、
「仕事があること」
そのものに安心してしまうと、問題が見えにくくなります。

経営を続けるために必要なのは売上だけではありません。
会社に何が残っているのかまで見る必要があります。

断る前に「続けられる条件」を探してみる

不採算取引への対応は、
続けるか、断るか
の二択だけではありません。

価格を見直す。
最低ロットを設定する。
配送条件を変える。
納期に余裕をもらう。
仕様を変更する。
発注単位をまとめてもらう。
対応範囲を限定する。
条件を変えることで、採算が合う仕事へ戻せる場合があります。

だから最初から、
「この仕事はもう断らなければ」
と考えるのではなく、
「どういう条件なら今後も続けられるのか」
を考えてみる。
そのうえで取引先と相談する。
これは、長年の取引関係を切る話ではありません。

むしろ、
長く続けるために関係を調整する話
です。

相手が条件変更を受け入れてくれるとは限りません。
それでも、何も言わずに自社だけが負担を抱え続けることとは違います。

「断ること」と「相手を拒絶すること」を分ける

取引先に仕事を断れないとき、
「断ったら申し訳ない」
という感覚が出ることがあります。
しかし、
案件を断ることと、相手との関係を断つことは同じではありません。

「この条件では難しい」
「この数量では対応できない」
「この価格では継続できない」
と言うことは、取引先そのものを否定することではありません。

ここを一緒にしてしまうと、あらゆる要求を断りにくくなります。

むしろ、
「ここまではできます」
「この条件なら対応できます」
「別の方法なら可能です」
と伝える。

断るだけで終わらせず、可能なら代替案を考える。
そうすれば、断ることも取引関係の一部になります。

私自身、年間の発注ボリュームを考えても、
これ以上は値上げ幅を自社で吸収することがかなり難しい
という実態をお伝えした上で値上げのお願いをし、
代わりにコストダウンとなる使用素材の変更の代替案を提案した経験があります。

その時からお客様と、より踏み込んだ会話ができるようになったように思えます。 

不採算取引を続ける理由を、自分で説明できるか

私が一つの判断基準になると思うのは、
「なぜ、この赤字取引を続けているのか」を自分で説明できる
ということです。

たとえば、
「単体では利益が薄いが、他の取引を含めると十分な利益がある」
「今後伸ばしたい取引につながっている」
「一時的な原価上昇なので、一定期間だけ維持する」
「戦略上、この顧客との関係を優先する」
こうした理由があるなら、不採算に見える仕事を続けることも経営判断です。

一方、
「昔からやっているから」
「断るのが怖いから」
「相手に悪く思われたくないから」
だけになっているなら、一度立ち止まった方がいい。

問題なのは、赤字取引そのものではありません。
自分が選んで続けているのか、
それとも断れないまま続いているのか。
ここには大きな違いがあります。

長年の関係を守ることと、不採算を抱え続けることを分けて考える

赤字の仕事でも断れない。
長年の取引先であればあるほど、その判断は難しくなります。

過去への感謝。
先代との付き合い。
今までの売上。
他の取引への影響。
取引先からどう思われるか。
いろいろなものが、一つの案件に乗ってきます。

だから、
「赤字なら断ればいい」
という単純な話ではありません。

しかし同時に、
「長年の付き合いだから続ける」だけで、本当にいいのか
も考える必要があります。

案件単体ではどうなのか。
取引全体ではどうなのか。
条件を変更できないのか。
今後につながる意味があるのか。

そして、
自分は経営上の理由から続けているのか。
それとも、断ることが怖くて続けているのか。
一つずつ切り分ける。

その結果として、
続ける。
条件を変える。
一部だけ断る。
あるいは取引そのものを見直す。
どの判断になるかは、それぞれ違っていいと思います。

長年の取引関係を大切にすることは、自社だけが我慢し続けることではない。
双方が無理なく続けられる条件を考えることもまた、関係を大切にする方法の一つです。

事業承継では、先代から多くのものを引き継ぎます。
しかし、すべてを同じ条件のまま続けることだけが継承ではありません。
過去を大切にしながら、今の会社が続いていける形へ整えていく。
その判断もまた、後継者が担う事業承継の一部なのではないかと思っています。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

事業承継のストレスは、
能力や性格の問題ではなく、
構造によって生まれるものです。

もし今しんどさを感じているのであれば、

それはあなたの問題ではなく、
環境によるものかもしれません。

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