― 相談できない立場で、一人で考え続けてきた内省と支え /家族経営・事業承継のストレスと向き合う記録―
事業承継でストレスを感じている方へ。
家族経営の中で、
「なぜこんなにしんどいのか」と感じることはないでしょうか。
仕入価格が上がった。
物流費も上がった。
これまでと同じ価格で販売していたのでは、以前のような利益が残らない。
数字だけを見れば、
「価格を改定した方がいい」
と思う。
ところが、値上げを検討している相手が長年付き合ってきた大切な取引先だったら、
判断は一気に難しくなります。
値上げを伝えたことで関係が悪くならないだろうか。
他社へ切り替えられないだろうか。
注文量を減らされないだろうか。
特に、その一社が自社の売上に大きな割合を占めていれば、
「利益を守るための値上げによって、大切な売上そのものを失うのではないか」
という矛盾した不安が出てきます。
値上げするのか。
それとも、取引先との関係維持を優先するのか。
今回は、価格改定の方法ではなく、
一社への依存度が高い会社ほど難しくなる、
この経営判断と心理について考えてみます。
「値上げか関係維持か」の二択にしない
先に結論を書くと、私は、
「値上げするか、関係維持を優先するか」という二択だけで考えない方がいい
と思っています。
なぜなら、本来目指したいのは、
「値上げを成功させること」
でも、
「今までの価格を守ること」
でもなく、
自社と取引先の双方が、今後も取引を続けられる状態を作ること
だからです。
値上げが必要なら、その理由を整理する。
一方で、取引先が価格改定を受け入れられない事情もあるかもしれない。
価格以外の条件を変更できる可能性もあります。
それらを確認する前から、
「値上げすれば関係が壊れる」
と決めてしまえば、価格改定について話すことさえできなくなります。
逆に、
「利益が減っているのだから値上げするしかない」
と考えれば、取引先側の事情を見落とす可能性があります。
だからこそ、値上げと関係維持を対立させるのではなく、
「関係を続けるために、どの条件を変える必要があるのか」
と考えることが大切なのだと思います。
値上げの必要性が分かっていても経営判断が重くなる
価格改定だけを数字の問題として考えれば、比較的単純です。
仕入価格はいくら上がったのか。
物流費はいくら増えたのか。
現在の粗利益はいくらなのか。
どの程度までなら自社で吸収できるのか。
必要な利益を確保するには、販売価格をいくらにする必要があるのか。
しかし実際の取引では、数字以外のものが入ってきます。
「長年取引してもらっている」
「先代の頃から付き合いがある」
「他の商品も買ってもらっている」
「自社の売上に占める割合が大きい」
そうなると、
採算だけでは決められない価格
が生まれてきます。
特に一社への依存度が高い場合、
「この商品をいくらにするか」
という話だったはずなのに、
いつの間にか、
「この取引先を失っても会社は大丈夫なのか」
という経営全体の問題にまで広がります。
だから判断が重くなるのだと思います。
私も以前は、値上げの話が仕入先から来た時は条件反射的に、
『この話を販売先にした後も、今まで通り取引してもらえるのか』
という不安事ばかりを考えていた時期があります。
一社依存が大きいほど「客離れ」が怖くなる
値上げを考えるとき、
「客離れ」という言葉が頭に浮かぶことがあります。
価格を上げたら他社へ行ってしまうのではないか。
相見積もりを取られるのではないか。
注文量を減らされるのではないか。
これは商売をしていれば無視できないリスクです。
しかし、その不安の大きさは、
すべての取引先で同じではありません。
売上全体の数%を占める顧客と、数十%を占める顧客では、
失ったときの影響が違います。
つまり、
値上げによる客離れへの恐怖は、自社の顧客構成によっても変わる
ということです。
一社依存が大きければ、
値上げを伝える
↓
相手が不満を持つ
↓
注文が減る
↓
他社へ切り替わる
↓
自社の売上が大きく減る
という未来を想像しやすくなります。
すると、まだ値上げを伝えてすらいないのに、
「今の価格を維持した方が安全だ」
という方向へ気持ちが傾いていきます。
関係維持を優先した価格据え置きは、本当に間違いなのか
ここで注意したいのは、
「怖くても値上げするのが正しい」わけではない
ということです。
取引先との関係を考えて、あえて価格を据え置くことも経営判断です。
たとえば、
その取引先との総取引では十分な利益が出ている。
今後、取引量が増える可能性がある。
一時的な原価上昇だと判断している。
他の商品との組み合わせで採算が取れている。
こうした理由があるなら、
「今回は価格を維持する」
という判断にも合理性があります。
問題なのは、
なぜ据え置くのかを自分で説明できない状態
だと思います。
「客離れが怖いから」
「嫌われたくないから」
「長年の取引先だから何となく言えない」
だけになっているのであれば、価格を据え置いたというより、
不安によって価格を決められてしまった
とも考えられます。
以前私は、比較的多く取引を頂いている会社様への価格据え置きを決定した時に、
『波風は立てず関係維持に努めることはできた』
その一方で
『でも本当にこれで良かったのか…』
という形容し難い疑念に後々に渡って襲われた経験があります。
あの時は経営的な判断以上に『不安の感情による判断』をしていたのだと思います。
関係維持を優先し続けると、別の問題が起きる
一度だけ価格を据え置くのであれば、大きな問題にならないこともあります。
しかし、
仕入価格が上がっても据え置く。
物流費が上がっても据え置く。
小ロットになっても据え置く。
特別対応が増えても据え置く。
これが積み重なると、少しずつ利益が削られます。
そして、
「今さら値上げを言いにくい」
という状態になっていきます。
つまり、関係を守るために価格を維持してきた結果、
時間が経つほど価格改定が難しくなる
ことがあります。
さらに怖いのは、売上自体は残っていることです。
注文がある。
請求もしている。
数字上は売上が立っている。
だから問題が見えにくい。
しかし利益を見ると、
「こんなに仕事をしているのに、なぜ残らないのだろう」
という状態になる。
関係維持を優先することにも、コストがあるということです。
値上げすることと、取引先を大切にすることは両立できないのか
ここで一度、考え方を変えてみます。
値上げすると関係が悪くなる。
価格を維持すれば関係を守れる。
本当にこの二つだけなのでしょうか。
取引先側も、自社との取引を続けたいと思っているかもしれません。
だとすれば、
「値上げします。以上です」
ではなく、
「今後もこの取引を続けるために、条件について相談したい」
という話し方もできます。
価格を変更する。
数量をまとめてもらう。
最低ロットを設ける。
配送条件を変更する。
納期に余裕をもらう。
仕様を見直す。
発注方法を変える。
価格以外にも、採算を改善する方法があるかもしれません。
そう考えると、
「値上げするか、関係を守るか」
ではなく、
「関係を守るために、どの条件を変えるか」
という問いに変わります。
取引先の反応と、自社の判断を切り分ける
価格改定を伝えたとき、取引先が喜ぶとは限りません。
「高くなるの?」
「厳しいな」
「他社も調べてみる」
そんな反応をされることもあるでしょう。
ここで、
「やっぱり値上げなんて言わなければよかった」
と感じるかもしれません。
しかし、取引先が価格上昇を嫌がることと、
こちらの判断が間違っていることは同じではありません。
相手は相手の会社を守るために、できるだけ有利な条件を求める。
こちらも自社を続けるために、必要な条件を考える。
商売であれば、利害が一致しない場面はあります。
だから、
相手が嫌がった=関係が壊れた
とすぐに結びつけないことも大切だと思います。
私もかつて『値上げのお願いに伺いたい』と電話で告げた時の不穏な声と裏腹に、
実際の面会ではあっさり価格改定を受け入れてもらえたり、
『やはり満額の価格転換難しい』と、話が決まるまで何度か先方に伺い、
結局は一部アップの受け入れで落ち着いたりといった経験があり、
その時は先方が嫌がってたものの、
それは「即」関係破綻には繋がらないのだなと実感しました。
「値上げできない問題」の奥に一社依存がないか
ここまで考えていくと、
値上げ問題とは別のものが見えてくることがあります。
それが、
大口取引先への依存です。
もし、
「この取引先に値上げを言ったら会社が危ない」
というほど一社の存在が大きいのであれば、
価格だけを考えても問題は解決しません。
その会社との取引は大切にしながら、
別の顧客を増やす。
新しい商品を育てる。
既存の小さな取引先を伸ばす。
別の市場へ営業する。
少しずつ売上の柱を増やす。
こうして、
「この一社を絶対に失えない」状態を小さくしていく
必要があります。
一社依存が下がれば、
値上げ交渉にも少し違った状態で向き合えるようになります。
相手を大切にする気持ちは変わらない。
しかし、
「何を言われても受け入れなければならない」
という状態からは離れられる。
価格交渉の問題に見えて、実は顧客構成の問題だった。
そんなケースもあるのだと思います。
二代目経営者の場合、「先代の関係を壊したくない」が加わる
事業承継では、さらにもう一つの感情が入ることがあります。
先代が長年付き合ってきた取引先。
自分が後継者として引き継いだ大口顧客。
その相手に、自分の代になって値上げをお願いする。
すると、
「先代のときはこの価格だった」
と思われないだろうか。
「二代目になって条件が悪くなった」
と思われないだろうか。
そして何より、
「自分の判断で、先代が築いた関係を壊してしまわないか」
という不安が出てきます。
しかし、先代の時代と今では経営環境が違います。
仕入価格も違う。
物流費も違う。
市場も違う。
同じ条件を維持することだけが、先代からの取引を大切にすることではないはずです。
むしろ、
今後も取引を続けられる条件へ調整することも、
関係を引き継ぐ仕事の一つなのではないでしょうか。
私も『先代ならどう判断しただろう』という『判断材料の依存』から中々抜け出せずにいた為か、
『自分の代で条件を変えること』に関しては抵抗を感じていたものでした。
しかし事実と感情を切り分けて判断する事を意識するようになってから、
徐々にではありますが、『どうしたらお客様と取引継続を一緒に考えていけるか』
を念頭に置けるようになり、その為の方法を模索する習慣がついてきたように思います。
「値上げする・しない」より先に確認したいこと
判断に迷ったとき、私はまず問題を分けた方がいいと思います。
現在の価格で、実際にどの程度の利益が残っているのか。
価格を据え置いた場合、どの程度まで耐えられるのか。
その取引先が自社の売上・粗利益に占める割合はどの程度なのか。
値上げ以外の条件変更はできないのか。
そして、
自分は何を一番怖がっているのか。
利益が減ることなのか。
取引先を失うことなのか。
先代からの関係を壊すことなのか。
相手から悪く思われることなのか。
ここを切り分けるだけでも、
「値上げするべきか」
という大きな問いが、いくつかの小さな問いに変わります。
守りたいのは価格ではなく、続けられる関係
値上げするか。
関係維持を優先するか。
この二つの間で迷うのは、取引先を大切にしているからこそだと思います。
特に一社への依存度が高ければ、
「値上げによって失ったらどうする」
という不安は大きくなります。
だからといって、
「怖くても値上げすべき」
とも、
「大切な取引先なら我慢すべき」
とも単純には言えません。
大切なのは、
何を守るために、その判断をするのか
を自分で分かっていることです。
価格を維持することが、関係維持になる場合もある。
価格を改定することが、長期的な関係維持につながる場合もある。
そして場合によっては、
価格以外の条件を変えることで双方が続けられる形を作れるかもしれません。
一社依存が強すぎて何も言えないのであれば、
価格交渉だけでなく顧客構成も考える。
先代からの関係が判断を重くしているのであれば、
「当時の条件を守ること」と「関係を受け継ぐこと」を分けてみる。
そして、
値上げするか、関係を守るかではなく、関係を続けるために何を変えるのか。
そう問い直す。
答えがすぐに出なくても、
自分が何を怖がり、何を守ろうとしているのかが見えてくれば、
不安だけに経営判断を任せる状態からは少し離れられるのではないかと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
事業承継のストレスは、
能力や性格の問題ではなく、
構造によって生まれるものです。
もし今しんどさを感じているのであれば、
それはあなたの問題ではなく、
環境によるものかもしれません。
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